― 理論は明快、だが実践できる人はごくわずか ―
著者について
本書『50万円を50億円に増やした』の著者は、いわゆる短期売買や投機ではなく、徹底した企業分析を軸にした長期投資で資産を築き上げた投資家です。
タイトルだけを見ると派手で再現性の低い成功談に見えますが、実際の中身はかなり堅実で、数字とロジックを重視した内容になっています。
著者は「運が良かった」「たまたま当たった」という説明をほとんどせず、
なぜその企業を選んだのか
どのような価値に着目したのか
を淡々と、かつ論理的に解説しています。
その姿勢からも、再現性を意識した投資哲学を持っていることが伝わってきます。
本書の概要
本書では、株式投資を以下の3つの切り口で整理し、具体例を交えながら説明しています。
① 資産バリュー株
資産バリュー株とは、企業が保有している土地や不動産などの資産価値が、株価に正しく反映されていない企業を狙う投資手法です。
特に、歴史の古い企業では、土地が取得当時の簿価のまま有価証券報告書に記載されていることが多く、実際の時価と大きく乖離しているケースがあります。
その結果、企業の本来の価値よりも株価が割安になっていることがあるのです。
著者は、
・土地売却
・企業買収
・事業再編
といったイベントが起こることで、その隠れた価値が顕在化すると考え、投資判断を行います。
② 収益バリュー株
収益バリュー株は、企業の収益力に着目する投資手法です。
現在の業績だけでなく、
・将来の利益成長
・事業の競争優位性
・市場環境の変化
などを分析し、「今は割安だが、将来は収益が伸びる」と判断した企業に投資します。
いわゆる王道のバリュー投資ですが、本書では表面的な指標だけでなく、収益の質や持続性まで踏み込んで分析する重要性が強調されています。
③ シクリカルバリュー株
シクリカルバリュー株は、景気循環(シクリカル)の波を読む投資手法です。
本書で紹介されている代表例が造船会社です。
船は耐久年数が長いため、買い替え需要が一気に来る時期と、ほとんど来ない時期があります。
その結果、
・需要が少ない時期 → 売上・利益が低迷し赤字
・一定期間を過ぎる → 買い替え需要が集中し業績回復
というサイクルが生まれます。
著者は、「今は赤字だが、将来黒字になる可能性が高い」局面を狙って投資することで、大きなリターンを得てきました。
読んで感じたこと(感想)
本書は、3つの投資手法について非常に丁寧に説明しており、投資の考え方を学ぶ本としては非常に参考になります。
一方で、読み進めるほどに強く感じたのは、
株で簡単に儲ける事は、やはり難しい
という現実です。
著者自身も、
・徹底した企業分析
・将来を見通す仮説構築
・景気循環の法則を見極める力
といった地道で時間のかかる努力が不可欠であることを、繰り返し強調しています。
「株で儲けることはできる」と書かれている一方で、
それを実践できる人は極めて少ない
という事実も、この本は同時に語っているように感じました。
理論は理解できても、
・大量の有価証券報告書を読み
・数字を疑い
・市場の逆を行く判断をし
・結果が出るまで待ち続ける
これを継続できる人は、正直かなり限られます。
まとめ
『50万円を50億円に増やした』は、
投資の夢を煽る本ではなく、現実を突きつけてくる良書だと思います。
✔ 投資の考え方を学びたい人
✔ バリュー投資の本質を理解したい人
には、間違いなくおすすめできます。
ただし、
「読めば誰でも同じように儲かる」本ではありません。
むしろ、
本当に株で儲けられる人が、なぜ少ないのか
を証明している一冊だと感じました。
覚悟と努力がある人にとっては、非常に価値のある本です。
